Haijiの絵日記

デジタル作品とアナログ作品の違いについて思うこと~ボローニャ国際絵本原画展2019に行ってきました~

目次

こんにちは。

イラストレーター、絵本作家の*Haiji*です。

先日私の住む兵庫県西宮市の「西宮市大谷記念美術館」にて毎年開催されている【2019イタリア・ボローニャ国際絵本原画展】を見に行って参りました。

私は絵本のようなストーリー性のある、背景のあるイラストレーションが好きなので、去年に引き続き今年も見に行くのを楽しみにしていた展示です。

今年の展示を見て思ったことを書いてみたいと思います。

展示の概要

「2019イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」

日時:2019年8月17日(土)〜9月23日(月祝)

        10:00〜17:00 (ただし入場は16:30まで) / 水曜定休日(祝日の場合は開館、翌日休館)

場所:西宮市大谷記念美術館


イタリアのボローニャで毎年春に開催されている「ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェア」というイベントが元になっている展示です。

そのイベントでは絵本コンクールが毎年行われるのですが、世界中からイラストレーターがこのコンクールに作品を応募します。

プロアマ問わず、5点1組のイラストレーションを用意すれば誰でも応募できます。※絵本ではなくイラスト5点。

今年は2901作品もの応募の中から選ばれた76作品が、今回の大谷記念美術館での絵本原画展ですべて展示されています。

「絵本原画展」「5点1組」ということで、やはり絵本になってもおかしくないようなストーリー性のある作品が多くなります。

作家がイラストレーションに合わせてストーリーを5つ用意するのですが(場合によってはストーリーに合わせてイラストレーションを用意するという流れかも)、ストーリーがイラストレーションのそばに文字で記載されており、文字と絵で物語を想像しながら見ることができます。

作品が展示されているのは3~4部屋ですが、それとは別に今回受賞した方や審査員へのインタビューをムービーで観られるスペースがあったり、実際に絵本になった作品を見るスペースがあったとただ「絵を見て終わり」ではないので、絵本が好きな人、絵本作家を目指している人にとってとても楽しい展示会になっています。


ボローニャ国際絵本原画展は関西では西宮市大谷記念美術館で開催されます。

大谷記念美術館はお庭がとても綺麗でリラックスできる雰囲気がいいですね。

全体的な作品の雰囲気

私の全くの主観になりますが、今回の展示は去年のと比べると「明るい」「細々した作品が多い」といった印象がありました。

去年は例えば白と黒のモノクロで大部分を描いて、一番見せたいポイントだけ赤い着色がしてある、という彩度抑えめのシックな作品が、特にアジア圏の作家の中で多かったですが、今年は全体的に華やかな色使いの作品が選ばれているようでした。

見ていてワクワクするようなものが多く楽しい気持ちになりました。

(↑ポルトガルのカロリーナ・セラーシュさんの作品。カラフルで元気が出るイラストレーション。画集では左のページの腰のラインと右のページの地平線が合わせてあるところが楽しい。)

あとは絵本原画展ということで、ストーリーを絵の中に盛り込むために背景が多く描きこまれているイラストレーションが多かったです。

展示会場にきているのはおもに女性が多く、子連れの方も多くいらっしゃいました。

イラストレーションにつけてあるストーリーを絵本のように読み聞かせながら見ている親子もいて、大人も子供も楽しめる展示という雰囲気がとてもよかったと思います。

デジタルとアナログの違いについて思うこと

デジタル作品多かった

今年の展示を見て1番感じたことが、「デジタルの作品多いな」ということでした。

去年もこの展示に行きましたが、去年デジタルで描かれた作品は全体の約2~3割くらいだったような気がします。

絵本の公募などでも「アナログの作品に限る」という応募条件が一般的という認識でいたので、去年の「デジタル作品2~3割」の多さにも驚きましたが、今年はぐんと増えて5割、ひょっとしたら6割くらいがデジタル作品だったように思います。

もっとも、絵本の公募も年々「アナログでもデジタルでも可」という条件になっているところが増えつつあります。

デジタルという新しい画材も時代とともに受け入れられてきているのを感じますね。

作家にとってはデジタルもアナログも同じ作業量

デジタルとアナログは私はどちらも描きますが、構想を練るときや実際に手を動かすとき、デジタルでもアナログでも同じ量の作業を行います。

作家としてはデジタルもアナログも等しく手間を掛けて描いているのですが、それぞれ得意分野が違うなということも感じています。

カットイラストのお仕事だとデジタルが、展示での作品や絵本向けの作品となると、今はまだアナログが重宝されるような気がしますね。

カットイラストの場合はデジタルだと簡単にメールで納品ができる・膨大な量のイラストの管理がしやすい・文章を説明するには簡潔なイラストレーションが適している…などがその理由です。

カットイラストを使用する際、主役は書籍の文章だったり説明文だったりして、イラストは読者の理解の手助けをするための補佐役になることが多いと思います。

展示や絵本となるとなにかを説明するための補佐的なイラストレーションというよりは、絵・イラストレーションそのものが主役となる場合が多いです。

見る側にとってはアナログが重宝されている?

今回の展示で絵本原画展の審査員の方が話しているのをムービーの展示で見ていると、

(絵本の応募作品を)デジタルで描かれてる人が多いが、入賞を決めるかどうかの大切な審査の時に原画を見られないのは残念。

アナログが増えるとこの展示はもっと豊かなものになる。

デジタルだけが技法じゃないことを知って欲しい。

と言っておられ、我々描き手にとっては同じ作業としているつもりでも、見る側にとってはやはり

「絵本にはデジタルじゃなくてアナログで描いた作品じゃないと」

「デジタル作品よりアナログ作品の方が価値が高い」

という思いがベースの部分に存在しているなという印象を持ちました。

ある方が言うには「(デジタルのイラストは修正が簡単にできるということを受けて)アナログにはデジタルでは出ない緊張感がある」とのことで、その言葉には私はすごく共感したのを覚えています。

細かい部分まで繊細に描かれた作品を見ると、どれだけ細い筆でどれだけ集中してどのくらいの時間手を動かしたんだろう、と制作中の作家に思いを馳せたりします。

デジタル作品とアナログ作品は性格が違うので単純に優劣を決めることはできないと思いますが、今回の絵本原画展などでも見られたのが「解像度が足りず画像の細かい部分がもやっと崩れてしまっていたこと」。

見る側としては画像の崩れが気になってしまって、作家の表現したかったことが素直に心に入ってこないと感じました。

デジタルで表現する場合はもっとも気をつけたいことの一つですね。

素材を使った表現に触感が刺激される

上記のデジタルでもアナログでもない作品も何点かありました。

布を貼って作った作品、シルクスクリーン、刺繍、フェルト、消しゴムはんこの作品などです。

(↑東郷なりささんの消しゴムはんこの作品。同じ海でも上方と下方で色が違ったりして見入ってしまう。優しい色使いが心地よい作品たちでした。)

大きくわければアナログの分野になるかもしれないですが、一般的に画材とされている鉛筆、色鉛筆、インク、ペン、絵の具などを使用していないという理由で、ここではアナログと切り離して考えてみたいと思います。

このような作品に対しては、他の平面の作品を見る時に比べて、少し違った感覚を覚えました。

例えばフェルトを使った作品は「触ったらこんな感触なのかな」と思わず想像してしまいます。

(↑アメリカのアミーン・ハサンザーデ・シャリーフさんの作品。原画の横のほうから見るとゴールドとシルバーのインクがキラキラと光って綺麗。)

私の中ではそういった作品を見るときは、平面の作品を見るときに比べて脳の別の部分を刺激されているような感じがします。

作家の表現しようとしている内容だけでなく、見る側の「触感」も刺激されるそのような作品は、内容に関わらず「温かみ」を感じるような気がしますね。

作品とひとつになると言ったら大げさかもしれませんが、「触ったらこんな感じなのかな」と想像することで、その作品に手が届く場所、同じ場所にいるんだという不思議な感覚になります。

先日ブログに書いたレオ・レオーニの絵本も切った紙をコラージュしていますがこの絵本も同様に「触感」が刺激されます。

このような不思議な感覚を見る側に与える、画材以外の素材を使った表現は私も今後試してみたいなと思います。

絵本原画展に求められる作品について考察

そのようなデジタル作品とアナログ作品の違いも含めて、この展示会で評価されやすい作品について考えてみます。

国際絵本原画展で流されているムービーには、今回の受賞作家や審査員の方のインタビューが流れており、その中にヒントがたくさん詰まっていました。

絵本は絵はもちろんのこと、ストーリーの着眼点、子供の気持ちが反映されているか・共感してもらえるか・興味を持ってもらえるか、本1冊を通して貫くテーマがあるかどうか。

どういう絵本を作りたいか?誰にどう思われたいか?

スキル面が優れているだけで選ぶことは無い。それよりも、感情に訴えてくるか、審査員の感情が揺さぶられるかどうか。寒い感覚や、懐かしい気持ちになる感覚など。 

五味太郎さんのラフなタッチが世界で受け入れられ、爆発的に流行し、そしてこれからはツペラツペラさんやヨシタケシンスケさんが伸びていくだろう。ヨシタケシンスケさんの「もう脱げない」なんて、世界中の子どもが服が首に引っかかって脱げなくて困ってるのにそれを本にした人なんていなかったよね。

心に残ったのは上記のようなコメントでした。

スキルで選ぶことはなく、感情に響いてくるかどうか、が求められている作品のポイントになってきそうです。

私もこのコンテストにチャレンジしてみようと思うのでこのこれをヒントに作品を作っていきたいと思います。

ちなみにボローニャ国際絵本原画展に応募したい方はこちらから応募できます。(英語です)

(↑オオノマユミさんが実際に現地の展示会に行ったときの記録絵本。交通のことや宿のことなど可愛く描いておられ、とても役に立つ上に衝撃的な可愛さの一冊。)

関西以外の巡回場所

板橋区立美術館(東京都)2019年6月29日〜8月12日

石川県七尾美術館(石川県)2019年11月1日〜12月8日

太田市美術館・図書館(群馬県)2019年12月14日〜2020年1月19日

西宮での展示が終わるとあとは石川県と群馬県で開催です。

お近くの方はぜひ足を運んでみられてはいかがでしょうか。

*Haiji*

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